不整脈ってどんな病気?
不整脈とは、脈が速くなる、遅くなる、不規則になる、など、一定でなくなる状態を指します。脈が1分間に100以上になると頻脈、50以下になると徐脈と呼びます。不整脈の全てが病気によるものではありません。たとえば、運動しているとき、緊張などストレスを感じているとき、発熱時などでは脈が速くなりますが、これは生理的な頻脈と言えます。また、脈のリズムが不規則になる不整脈の一つに期外収縮がありますが、これは多くの人にみられるものです。カフェインの過量摂取、大量飲酒、疲労、ストレスなどがきっかけとなり、年をとるにつれて増加する傾向にありますが、ほとんどは心配ないものです。
どうして不整脈になってしまうの?
心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割をする臓器で、筋肉でできた袋状の構造をしています。弱い電気が流れることで筋肉の袋は収縮し、血液が全身に送られていきます。
心臓の上の方には発電所の役目をする洞結節と呼ばれる場所があり、そこではほぼ一定のリズムで電気信号が発生しています。まず、この電気信号は心房(心臓の上の部屋)に広がります。その後、房室結節と呼ばれる組織を経由して、心室(心臓の下の部屋)全体に電気信号が広がります。すると、心室の筋肉が一気に収縮し、内部の血液が全身に送られます。洞結節では、安静時には1分間に60回~100回ほど電気信号が発生するため、心臓の脈は1分間に60回から100回ほど打つのが正常です。電気信号の発生や伝達経路に異常が生じると、不整脈が起こります。
心筋梗塞や心筋症など心臓自体に病気がある場合や、甲状腺ホルモン、血液中の電解質イオン、自律神経の活動などに異常がある場合に、不整脈は発生しやすくなります。服用している薬の副作用で不整脈を生じることもあります。また、異常な電気信号を発生させる部位が、心臓の一部に形成された結果として、不整脈が生じる場合もあります。
不整脈にはどんな種類があるの?
頻脈になるもの
発作性上室性頻拍
発作的に脈が速くなる不整脈です。異常な電気回路が心臓内にあり、この電気回路を電気が旋回してしまうことで頻脈が出現します。
心房細動
心房細動は心房がけいれんしている状態です。心房内に新たな発電所ができてしまい、不規則な電気信号の流れが心房内に多発することが原因です。
心房細動になると心房はけいれんしているだけで、うまく収縮できません。このため、心房内の血流は悪くなり、血の塊(血栓)ができてしまうことがあります。血栓が脳に流れると脳梗塞を起こすため、血液をサラサラにする薬を予防的に使用します。
心房粗動
右心房と右心室の間には、血液の逆流を防止するための三尖弁という弁があります。心房粗動の多くは、この三尖弁の周囲を電気信号が旋回してしまうことで出現する頻脈です。
心房細動と同様、心房内の血流が悪くなり、血栓ができて脳梗塞を発症するリスクがあります。
また、心臓の拍動が過剰に早くなることで正常なポンプの機能が果たせなくなり、長期間続くと心不全になることもあります。
心室頻拍
何かしらの原因によって、心室性期外収縮が3つ以上連続する状態です。心臓に病気がない方で、持続時間が少ない場合は心配ないことがほとんどです。しかし、心臓に病気がある方や、頻度が多い方、持続時間が長い方は注意が必要です。心臓が全身に血液を送り出すためのポンプ機能が十分に働かず、動悸やふらつきが生じ、時に意識消失や命にかかわることもあるためです。
心室細動
心室が痙攣している状態です。心室は血液を全身に送り出す中心的な役割を担っているため、心室細動が起きると血液を送り出せなくなり、最終的には命を落としてしまいます。すぐに心臓マッサージとAED(自動体外式除細動器)による処置を行う必要があります。
徐脈になるもの
洞不全症候群
心臓内で発電所の役目をしている洞結節に異常が生じ、電気刺激の回数が減ることで、心拍数が減少する病気です。
多くは加齢に伴う変化が原因ですが、虚血性心疾患や心筋症などの心疾患、薬剤が原因になることもあります。脈が遅くなることで、めまい、ふらつきなどを起こし、心臓が一時的に停止すると失神、けいれんを起こすこともあります。
房室ブロック
心房と心室の間には、心房から伝わった電気の流れを調整して心室に伝える房室結節という部位があります。房室結節の機能が低下すると、心房からの電気をうまく心室に伝えられなくなり、心拍数が減少して徐脈になります。このような状態を房室ブロックといいます。軽症の場合は症状がないこともありますが、重症の場合にはめまいやふらつき、失神、心不全を起こすことがあります。
期外収縮
正常な脈と脈の間に心臓内で異常な電気刺激が生じてしまい、通常の脈よりも早いタイミングで心臓の収縮が起こる状態です。
異常な電気刺激が心房から生じている場合を「上室性期外収縮」、心室から生じている場合を「心室性期外収縮」とよびます。
最も頻度の多い不整脈で、加齢とともに頻度は増加することが知られています。無治療で良いことが多いですが、期外収縮の頻度が多い場合や症状が強い場合には、薬剤治療やカテーテル治療の対象となることがあります。
どんな症状があるの?
自覚症状がある場合と、無症状で健診などによって偶然見つかる場合があります。以下に不整脈の代表的な症状について解説します。
動悸
通常では自覚しない心臓の拍動を感じるようになる状態を指します。動悸の感じ方には個人差が大きく、心臓がドキドキする、脈がとぶ、など、様々な違和感や不快感として訴えられます。
不整脈で自覚することが多い症状ですが、不整脈以外にも狭心症や心筋梗塞、心不全、また、心臓の病気以外(貧血、低血糖、甲状腺の異常、精神的緊張)でも感じることがあります。
失神
失神とは一時的に意識を失うことです。極端な徐脈や心停止、あるいは極端な頻脈が発生した場合、心臓から脳へ送られる血液量が減少してしまい、失神します。
一般的に心停止が 2~5秒程度の場合はめまい、ふらつき、眼前暗黒感などの前失神症状が生じます。6 秒以上の場合には失神してしまいます。意識を失うと転倒して受け身も取れないため、顔や頭に外傷を伴うことも多くあります。
どんな検査をするの?
心電図検査を基本として胸部レントゲンや心臓超音波、血液検査を行い、不整脈の原因を調べます。運動負荷による検査や心臓カテーテル検査が必要な場合は、地域の拠点病院にご紹介します。
12誘導心電図
不整脈が疑われる場合の基本の検査です。胸と手足に電極を貼り、心臓の電気の流れを確認します。不整脈の発作が出ているタイミングで心電図をとると、より正確に診断を行うことができますが、発作がない時には異常が検出できない場合もあります。
ホルター心電図
心電図を24時間にわたり記録する検査です。12誘導心電図では確認できない不整脈の診断に役立ちます。
電極と、心電図を記録するための小型の機械を取り付け、装着後は普段通りに生活をします。症状が出た時にはボタンを押してタイミングを記録するため、胸の違和感などの症状と不整脈に関係があるか、確認できます。また、症状が出ないような不整脈の診断にも役立ちます。
心臓超音波検査
不整脈を誘発するような心臓自体の病気の有無について調べることができます。超音波により心臓の大きさや壁の動き、弁膜症がないかを確認できます。
どうやって治療するの?
不整脈の種類や、患者さんの全身の状態によって治療法は異なります。
薬による治療
不整脈に対する薬物治療は、1)不整脈を止める、2)不整脈の発生を予防する、3)不整脈の症状を軽減する、などの目的で行われます。不整脈によって脳梗塞の原因となる血栓が発生するリスクがある場合には、抗凝固療法(血液を固まりにくくする薬剤の服薬)を行うこともあります。
薬以外の治療
デバイス治療(ペースメーカー、植込み型除細動器)、カテーテル・アブレーション治療、手術などの治療法があります。これらの治療は入院で行われるため、必要な場合には連携病院をご紹介します。
ペースメーカー
気を失うような徐脈の際にペースメーカーの取り付けが検討されます。心臓の外から電気刺激を与えることで、心臓が正常な回数拍動できるよう促します。植込みには手術が必要です。
植込み型除細動器(ICD)
心室細動や心室頻拍など突然死の恐れがある頻脈では、植込み型除細動器(ICD)の取り付けが検討されます。不整脈を感知すると心臓に電気ショックを与え、突然死を予防します。植込みには手術が必要です。
カテーテル・アブレーション
薬による治療では止まらない、あるいは予防できない不整脈に対して検討されます。血管からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、心臓まで到達させます。不整脈の原因となっている異常な電気信号の回路や、異常な電気信号を発している部位を熱で焼却し、治療します。
不整脈は予防できるの?
睡眠不足やストレス状態が続くと不整脈は起こりやすくなります。また、過剰なカフェインやアルコールの摂取、喫煙、普段飲んでいる薬の種類によっても不整脈が起こりやすくなることがあります。このため、不整脈の予防には規則正しい生活を送り、ストレスをためないことが大切です。
また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、COPDなど肺の疾患、心不全や心筋症などの心臓疾患は不整脈の原因となりますが、これらの病気をしっかりコントロールすることで不整脈を防げる場合があります。持病をお持ちの方は、しっかり治療を続けましょう。
突然死について
予期しない、事故や外傷によらない急な死を突然死と呼びます。不整脈の中でも、心室細動や心室頻拍は突然死を引き起こす最も怖い不整脈で、発生すると心臓から血液が送り出されなくなり、そのまま死につながります。
これらの不整脈の原因として多いのは、心筋梗塞や心筋症(拡張型心筋症、肥大型心筋症など)です。また、心臓の機能が正常であっても、特殊な電気信号の異常(QT延長症候群、Brugada症候群)を持つ方も、心室細動や心室頻拍を生じるリスクがあります。
突然死の危険因子には、心疾患の他に高血圧、糖尿病、脂質異常症、呼吸器疾患なども挙げられます。
突然死を予防するためにも、定期的な検診を受けることや、自覚症状があるときに早めに受診することをお勧めします。
心電図異常を指摘されたとき
会社や職場の定期健診などで心電図異常、不整脈を指摘された方は当院の循環器外来でご相談ください。