咳ぜんそくってどんな病気?
気管支ぜんそくの一歩手前の状態です。
咳ぜんそくの患者さんの気道(空気の通り道)は、アレルギーなどによる炎症が生じています。炎症がおきた気道はさまざまな刺激に対して敏感になり、ちょっとした刺激で咳が出ます。
気管支ぜんそくと違い、喘鳴(呼吸をするときにヒューヒュー・ゼーゼー音がする)や息苦しさはありません。
長引く咳の原因として最も多く、「風邪を引くたびに咳が長引く」という方は咳ぜんそくの可能性が高いです。
どんな症状があるの?
咳だけが長引きます。痰は出ないか、出たとしても少量です。
以下のような時に、症状が悪化しやすくなります。
- 夜から早朝にかけて
- ある特定の季節
- 風邪をひいたとき
- 冷たい空気を吸ったとき
- 運動したとき
- タバコの煙を吸ったとき(受動喫煙を含めて)
- 天気が悪いとき
- 花粉や黄砂の飛散の時期
どうやって咳ぜんそくを診断するの?
以下を満たす場合、咳ぜんそくと診断できるとされています。
- 喘鳴(呼吸をするときにゼーゼー、ヒューヒュー音がすること)を伴なわい。
- 咳が8週間以上(少なくとも3週間以上)続く。
- 気管支拡張薬を使うと、咳が改善する。
ただし、この基準は非常にゆるく作られているため、実際にはこれらを満たすような病気は、咳ぜんそく以外にもたくさんあります。このため、長引く咳があると「とりあえず咳ぜんそく」と診断されてしまうことも多く、誤診の温床となっています。
呼吸器専門医がいるクリニックでは、上記の項目だけで咳ぜんそくと診断することは通常ありえません。他の病気が隠れていないことを確認するための検査(肺のレントゲンなど)、咳ぜんそくの特徴を確認するための検査(FeNO、呼吸機能検査、血液検査など)を、患者さんごとの状況に合わせて追加し、診断していきます。
どんな検査をするの?
以下のような検査を行います。多数の検査を記載しましたが、全ての患者さんに全部の検査を行うわけではありませんのでご安心ください。患者さんごとの状況・希望に合わせてご提案します。
問診
咳ぜんそくの診断では問診が大変重要です。下記のような内容をたずねられます。
- どんな症状があるか。
- その症状はどの程度の頻度で生じるか。
- その症状が悪化する時間帯、きっかけがあるか。
- ご本人、ご家族にアレルギーがあるか。
- 何か持病があるか。何か飲んでいる薬があるか。
- 呼吸をするとき、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー音がすること)はあったか。
気管支拡張薬の反応確認
気管支拡張薬(短時間作用性β2刺激薬)を使用していただきます。気管支を広げる作用のある、吸入薬です。吸入した後、一時的に咳がおさまるようであれば、咳ぜんそくの可能性が高いと考えられます。
肺のレントゲン
咳ぜんそくではレントゲンで異常は見つかりません。
咳の原因となり、レントゲンで異常が見られる病気(肺がん、肺炎、結核、間質性肺炎、進行したCOPD、心不全など)が隠れていないか、確認します。
FeNO(呼気中一酸化窒素濃度)
吐いた息の中のNO(一酸化窒素)の濃度を測定する検査です。
アレルギーによって炎症が起きた気道の表面では、さまざまな物質が作られますが、その1つがNOです。吐いた息の中のNO濃度を測定することで、気道にアレルギーに関連した炎症が起きているかどうかのヒントになります。
アレルギーが関与する咳ぜんそく患者さんでは、多くの場合NO濃度が上がっています。このため咳ぜんそくの診断や、治療効果の判定に使用します。
スパイロメトリー(呼吸機能検査)
検査では、筒状のワウスピースをくわえた状態で思い切り息を吸い込み、次に力いっぱい吐きます。こうして息を吸う力、吐く力を測定します。咳ぜんそくの患者さんでは、息を吐く力がわずかに低下していることがあります。
血液検査
アレルギーに関する項目(好酸球数、非特異的IgE抗体、特異的IgE抗体)を調べることがあります。アレルギーを起こしやすい体質かどうか、アレルギーの原因となっている物質が何か、を確認します。
アレルギーの原因が特定できた場合には、その物質を避けるような生活を送ることで、症状の改善につながります。
どんな治療をするの?
気管支ぜんそくの治療と同じで、吸入ステロイド薬が治療の中心です。薬が気道に直接到達し、その場で効果を発揮するため、咳ぜんそく患者さんに生じている気道の炎症を効率的に抑えてくれます。また、吸入薬はほとんど体内に吸収されないため、副作用が非常に少ない点も優れています。このため妊娠中の方でも使用可能です。
吸入ステロイド薬の副作用としては「声がれ」があります。これは薬剤を吸入したとき、薬が口の中に付着することが原因です。そこで吸入薬を使用する方は、以下のことに注意してください。
- 吸入後にしっかりうがいをする。
- 食前に吸入する。(吸入後に食事をとると、唾液や食べ物を飲み込むときに、口の中に付着した薬が除去されやすくなります)
また、吸入ステロイド薬以外の治療薬として、以下のものがあります。
- 長時間作用性β2刺激薬(吸入)
- 抗ロイコトリエン受容体拮抗薬(内服)
- 長時間作用性抗コリン薬(吸入)
- テオフィリン製剤(内服)
症状が強い方には、これらの薬を組み合わせて使用します。
咳ぜんそくは治るの?
咳ぜんそく患者さんの30〜40%が気管支ぜんそくに移行します。気管支ぜんそくになると治ることは難しく、ほとんどの方は治療をずっと続けなくてはなりません。
気管支ぜんそくに移行する確率を下げるには、吸入ステロイド薬が有効です。咳ぜんそくを完全に治すため、しっかり治療しましょう。
いつまで治療を続けるの?
治療を開始すると、多くの方は5日以内に「だいぶ楽になった」と実感されます。1ヶ月程度続けると、「もう治ったから薬はいらないかな」と思える程度まで改善します。しかし、この時点で治療を終了すると、咳ぜんそくを再発する方は多く、気管支ぜんそくへの移行も危惧されます。
そこで一般的には、咳が出ないこと、検査(FeNOなど)結果が良いこと、の2点を確認しながら薬の量を減らしていきます。吸入ステロイド薬を最少量まで減らしても症状・検査結果ともに良好であれば、治療終了となります。
治療終了後、もし咳が再び出るようになってしまったら、医療機関を早めに受診して治療を再開してください。再発を繰り返す場合には、治療を終了せず、しばらく継続することもあります。