非結核性抗酸菌症

非結核性抗酸菌ってなに?

非結核性抗酸菌は、抗酸菌と呼ばれる細菌のうち、結核やらい菌(ハンセン病の原因)以外の菌のことを言います。土などの自然環境に加え、水道・貯水槽などの生活環境に広く存在しています。結核と異なり、人から人への感染は起こしません
これまで150種類以上発見されていますが、人に病気を起こすのはその一部です。アビウム、イントラセルラーレの2種類(これらを合わせてMAC「マック」と呼び、肺に感染した状態を肺マック症と呼びます) が非結核性抗酸菌症の原因菌として特に多く、80%程度を占めています。


どうして非結核性抗酸菌症になってしまうの?

非結核性抗酸菌に感染することが原因です。非結核性抗酸菌は私たちの生活環境に広く存在しているため、多くの方が日常生活の中で菌を吸い込んでいますが、以下の方の体内に定着しやすいと言われています。

  • 肺の病気(COPD、間質性肺炎、結核後遺症など)を持つ方。
  • 免疫力が低下する薬物治療(ステロイドやリウマチの薬など)をしている方。
  • 中高年の女性

非結核性抗酸菌症の患者さんはどれくらいいるの?

患者さんの報告義務がない病気のため、正確な人数は不明です。しかし急激に罹患率が上昇しており、結核患者さんよりも多くなっていると報告されています。


どんな症状があるの?

初期にはほとんど症状がありません。このため、健康診断でレントゲンやCTといった画像検査を受けた際、たまたま異常な影を指摘されて気づくことが多くあります。
病気が進行すると、以下のような症状が生じます。

  • 咳、痰が出る
  • 痰に血が混じる
  • 熱が出る
  • 体がだるい
  • 体重が減る
  • 食欲が低下する

診断のために、どんな検査をするの?

レントゲン、CT

壊れて広がった気管支や、粒状の白い影、空洞を伴った白い塊状の影、などが見られます。ただし、これらの異常は肺結核や肺癌でも見られることがあります。そこで、非結核性抗酸菌症が疑われたら、菌を特定するための検査も別途必要になります。

CT検査

喀痰培養検査

レントゲン、CTで非結核性抗酸菌症が疑われた場合、痰の培養検査を繰り返します。培養検査で2回同じ非結核性抗酸菌が見つかった場合、非結核性抗酸菌症の診断となります。
※非結核性抗酸菌は生活環境に広く存在するため、1回の検査で見つかっただけでは、痰をとる作業中にたまたま菌が混入してしまった可能性があります。

気管支鏡検査

気管支鏡検査痰がどうしても出ない場合や、痰の検査を繰り返しても診断がつかない場合、気管支鏡検査を行うことがあります。
気管支鏡検査では、口から内視鏡を挿入し、肺の炎症が起きた場所に生理食塩水を注入して回収します。この回収した生理食塩水を培養して細菌を特定します。以下の方には気管支鏡検査をお勧めしています。

  • 診断をしっかりつけたいとお考えの方。
  • 定期的なレントゲンやCTで、進行スピードが速いことが分かった方。
  • 免疫を抑制する薬を使っていて、今後速く進行する可能性が高い方。

気管支鏡検査は大きな病院でしか実施されておらず、当院でも行っていません。検査が必要な方には、お住まいの近くの大きな病院をご紹介します。


感染してしまったら将来どうなるの?

以下のように、病気の経過は患者さんによって大きく異なります。

  • 無治療で自然に良くなる方。
  • 治りはしないものの、5〜10年以上ほとんど進行しない方。
  • 放っておくと進行してしまうが、治療すれば進行が止まる方。
  • 治療しても病気が進行し続け、数年のうちに亡くなってしまう方。

通常の病気は早期診断・早期治療が基本です。しかし、非結核性抗酸菌症は一人一人経過が大きく異なるため、すぐに治療を開始しないといけない患者さんもいれば、治療を必要としない患者さんもいますこれを判断するためには、症状や進行スピードを定期的に評価する必要があります。そこで、レントゲンとCTが実施でき、呼吸器専門医がいる医療機関にかかることをお勧めします。


どうなったら治療を始めるの?

診断されても、すぐに治療を開始するわけではありません

  • 治療しなくても無症状で進行しない方がいること
  • 確実に治癒できる治療薬がないこと

がその理由です

このため、症状の程度、病気の広がり、進行スピード、年齢、持病、患者さんの考え方、などを考慮して方針を決めていきます。

治療を開始する目安

  • 血痰が出る方
  • 菌が肺の広範囲に広がっている方
  • 進行スピードが速い方

無治療で経過を見る目安

  • 症状がほとんどない方
  • ほとんど進行しない方
  • 重病をお持ちの方
  • ご高齢者

無治療で経過を見る場合には、定期的にレントゲンやCTなどの画像検査を受け、急に病気が進行してしまわないか確認する必要があります。


どんな治療をするの?

生活環境の見直し

生活環境の見直し
  • 自宅の中で非結核性抗酸菌が増殖しやすいのはお風呂場です。菌の増殖を防ぐため定期的に乾燥させるようにしましょう。また、24時間風呂は菌の温床になる可能性があり、使用しないことをお勧めします。
  • 土の中に菌がいるため、土ぼこりを吸入しやすいガーデニングや家庭菜園はできれば控えましょう。行う場合には、マスクを着用しましょう。

抗生剤

抗生剤3~4種類の抗生剤を併用して治療します。痰の培養検査やレントゲン・CTを定期的に行い、治療の効果があるかどうかを確認していきます。
残念ながら、抗生剤治療によって非結核性抗酸菌を完全に排除することが難しいのが現状です。「落ち着いた状態」にして病気と付き合っていくことが治療目標となります。
抗生剤の継続期間は、「痰の培養検査で菌が検出されなくなってから1年間」が一つの目安とされています。治療終了後も再燃・再感染のリスクがあるため、定期的にレントゲンやCTなどの画像検査を行います。

手術

菌が定着している範囲が狭い場合、抗生剤が効きにくい場合には、手術を行う場合があります。