肺炎ってどんな病気?
肺の中にウイルスや細菌が入り込んで感染し、炎症が起きた状態です。日本では肺炎(誤嚥性肺炎を除く)は死因の第5位を占めています。
早めに受診して適切な薬物療法を行えば、多くの場合完治します。しかし、ご高齢者では、肺炎に特徴的な症状(咳、痰、発熱、呼吸困難、胸痛など)が現れにくいため、受診のタイミングが遅れ、早期に治療を開始できないことが多くあります。また、持病がある方が肺炎になると重症になりやすく、命に関わることも珍しくありません。
特にご高齢の方、持病がある方は、「調子が悪いから風邪だろう」と御自身で決めつけず、早めに医療機関を受診するようお勧めします。
肺炎にはどんな種類があるの?
原因となる菌の種類から、細菌性肺炎と非定型肺炎に分類されます。細菌性肺炎に対してよく使用される抗生剤(βラクタム系抗生剤)が、非定型肺炎では無効なため、治療薬を選択する上で重要な分類となっています。
細菌性肺炎
肺炎球菌やインフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは別の病原体です)などの細菌に感染して起こる肺炎です。咳や痰、発熱、息切れが目立つ傾向にあります。
非定型肺炎
マイコプラズマ、クラミジアなどの微生物による肺炎です。60歳未満の若い方に多い、持病がない方に多い、咳が強い、痰が少ない、といった特徴があります。
その他の代表的な肺炎として、誤嚥性肺炎があります。ご高齢者の肺炎の7割を占めると言われており、大変身近な病気です。
誤嚥性肺炎
誤嚥とは、食べ物・飲み物・唾液・胃液などが食べ物の通り道(食道)ではなく、空気の通り道(気道)に入ってしまうことです。若くて健康な方の場合、もし誤嚥しても咳が出て、気管から肺の中にまで異物が入りこむのを防ぐことができます。しかし、ご高齢者では飲み込む力・咳をする力はいずれも衰えているため、誤嚥が起きやすく、気道に入った異物も肺まで入り込みやすくなります。口の中には非常に多くの細菌がおり、誤嚥して肺に到達すると肺炎になります。
食事のときに生じた誤嚥はむせこむことが多く、ご自身やご家族が誤嚥性肺炎のきっかけに気づけることが多いです。一方、夜寝ている時に生じる唾液・胃液の誤嚥は、むせこまないことも多く、知らない間に誤嚥性肺炎になっていることもあります(不顕性誤嚥と呼ばれます)。
どんな症状があるの?
以下のような症状を認めます。
- 咳
- 痰
- 発熱
- 息苦しい
- 胸が痛い
ご高齢者の場合、このような症状がはっきりしないこともあり、病院受診が遅れがちです。しかも肺炎が重症化しやすいため、注意が必要です。
ご高齢者では、食欲がない、だるい、ボーッとするなど、普段と様子が違うのであれば、早めに医療機関へ受診するようお勧めします。
肺炎はうつるの?
多くの肺炎は周囲の方にうつりません。
肺炎の原因菌の多くは、もともと私たちの鼻、のど、口などに常在しているものだからです。これらの菌が体内にいても、体力がある時には問題になりません。しかし、風邪をひいたり、免疫力が落ちたりすると、菌が肺に入り込んで肺炎になることがあります。
一方、周囲の人にうつる肺炎もあります。マイコプラズマや、コロナなどのウイルス感染症が代表的です。これらの場合、くしゃみや咳によって微生物が飛散し、周囲の方がそれを吸入すると感染してしまいます。このため、手洗い、うがい、咳エチケット、換気が重要です。
どうやって診断するの?
肺炎の診断は以下のことから総合的に判断します。
- 症状(発熱、咳、痰など)
- レントゲン、CTなどの画像検査
典型的な肺炎では「浸潤影」「すりガラス影」と呼ばれる肺が白くなる変化が見られます。 - 血液検査
免疫の細胞である白血球や、炎症が生じると上昇するC反応性蛋白(CRP)などの値が上昇します。
肺炎があれば、原因となった細菌を特定するため、痰の培養検査も行います。
また、年齢、脱水の有無、呼吸の状態、意識の状態、血圧などから重症度を判断し、自宅で治療が可能か、入院が必要かを判断します。
どんな治療をするの?
感染した細菌に合わせた抗生剤を使用します。しかし、細菌の特定には時間がかかることも多く、ほとんどの場合原因菌が判明する前に抗生剤を開始することになります。このため、症状、経過、年齢、持病などから感染した可能性の高い細菌を予想し、抗生剤を選びます。
治療を開始したら、数日から1週間後に再度診察し、治療の効果を判定します。効果が不十分な場合には抗生剤を変更します。
咳や痰がなくなったからといって、自己判断で薬をやめることは危険です。体内に残っている細菌が増殖し、症状が悪化してしまいます。また、中途半端に抗生剤を使うと耐性菌が発生します。すると、これまで効果があった抗生剤は効かなくなり、治療がうまくいかなくなります。処方された薬は全部飲み切るようにしてください。
肺炎は予防できるの?
予防のため、以下のワクチン接種をご検討ください。
肺炎球菌ワクチン
65歳以上の肺炎で最も頻度の高い原因は肺炎球菌です。肺炎球菌に対するワクチンがあり、感染を予防することができます。
成人に接種される肺炎球菌ワクチンは、23価ワクチン(ニューモバックス)と呼ばれるものです。1回接種するとおよそ5年間効果が続きます。肺炎球菌の仲間は数十種類あり、ニューモバックスでこれら全てをカバーできるわけではありません。このためワクチンを接種すれば絶対に肺炎球菌肺炎にならないというわけではありません。しかし、もし感染してしまっても、重症化を抑える効果があります。
65歳から5年ごとに接種することが推奨されています。65歳以上で5歳刻みの対象年齢(65、70、75、80、85、90、95、100歳)にあたる方は、初めてニューモバックスを接種する時に限り、自治体の公費の補助があります。対象となる年度以外の接種、2回目以降の接種は自費となります。
インフルエンザワクチン
ご高齢者では、インフルエンザをきっかけに肺炎を起こすことがあります。インフルエンザウイルスに感染すると気道の表面が傷つき、肺炎球菌などの細菌も肺に侵入しやすくなります。このため、肺炎予防のためにインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン両方を接種することが推奨されています。
口腔ケア
口の中の細菌が多いと、誤嚥した時に肺に細菌が入り込み、誤嚥性肺炎を起こす危険性が高まります。食後の歯磨き、寝る前の歯磨きは、肺炎予防に有効です。また、定期的な歯科医院でのクリーニングもお勧めします。